
ケアマネジャーとして業務を行う中で、最も心身のエネルギーを使い、かつ深い意義を感じる支援の一つが「看取り」ではないでしょうか。特に、病院から末期がん患者の在宅移行への担当依頼があったとき、緊張と不安を感じないケアマネジャーは少ないはずです。
「在宅で最期まで」という願いを叶える難しさ、医療的知識への不安、そしてご家族の揺れ動く気持ちへの対応……。
今回は、介護福祉士を基礎資格を持つ私自身の苦い経験と、それを乗り越えて気づいたケアマネジャーの本当の役割、そして実務で役立つ迅速対応のルールについてお話しします。
基礎資格へのコンプレックスと、それを乗り越えた「気づき」
これまで、何度か末期がんと宣告された方の担当をさせていただきました。最期まで自宅で看取ることができたケースは1人だけ。多くの場合、状態が悪化するにつれ、ご家族が怖がったり、あきらめたりして、再入院となるケースが殆どでした。自宅看取りの「壁」の高さを、身をもって感じてきました。
ある時、新規相談の看取りケースについて、事業所内で誰が担当するか話し合い、私が担当することになりました。しかし、ご家族に挨拶の電話をすると、「基礎資格が看護師のケアマネジャーがいい」と言われ、担当を断られたことがあります。この時は、非常にショックを受け、介護系基礎資格である自分自身にコンプレックスを感じました。
今回の依頼があった際も、「また同じことを言われるのではないか」という不安が頭をよぎりました。恐る恐るご家族に挨拶の電話をすると、返ってきたのは「よろしくお願いいたします」という言葉。そこから、私の支援が始まりました。
病院へ行き、入院中のご本人と面会。そして医師、看護師、訪問看護ステーション、福祉用具専門相談員などとのカンファレンスに臨みました。 往診医が決まり、訪問看護は病院併設のステーションが担当することに。自宅に帰る準備として、介護ベッド、エアマット(カンファレンスで状態を確認し選定)、車椅子、ヘルパー(おむつ交換、清拭を想定)の手配を進めました。
そして退院当日。自宅に到着すると、すぐに医師と看護師が訪問してくれ、その場でサービス担当者会議を開催。医療と介護が連携した支援体制が整いました。
ケアマネジャーの本当の役割:医療的ケアではなく「生活の環境整備」
看取りの支援、特に医療依存度が高いケースでは、介護系基礎資格のケアマネジャーは不安を持ちがちです。私もそうでした。しかし、今は違います。
なぜなら、たとえ基礎資格が看護師のケアマネジャーであっても、ケアマネジャーという立場である以上、医療的ケアに直接手出しはできないからです。
私たちケアマネジャーの役割は、医療行為をすることではありません。一つの「チーム」として医療・介護職をまとめ、適切な支援がスムーズに行えるよう調整することです。
看取り支援においては、医療職が中心となって動くことが殆どです。しかし、私たちはその医療的な状況を理解した上で、「介護の面で必要な環境の整備」を担います。
- 状態悪化を予測した、適切な福祉用具(エアマット等)の選定・手配
- ご家族の介護負担を軽減するための、タイムリーなヘルパー手配
- ご本人・ご家族の「生活」の視点に立った、細やかな声かけと環境調整
末期がんの患者様は、急激に状態が変わります。だからこそ、「その先を予測して、介護の面で必要な環境を整える」ことが、私たち介護系ケアマネジャーの強みであり、果たすべき大切な役割なのです。医療的知識がないからと自分を見失う必要はありません。チームの一員として、自分の役割を全般に果たすことに集中すればよいのです。
実務で役立つ、末期がん患者への迅速対応ルール
末期がん患者様の支援では、一分一秒を争う状況が生まれます。制度を正しく理解し、迅速に対応することが求められます。ここでは、厚生労働省の通知や介護報酬改定に基づいた、重要なルールを確認しておきましょう。
1. 要介護認定結果が出る前でも、暫定ケアプランでサービス開始可能
医師から末期と宣告された場合、心身の状況が急激に悪化し、介護サービスの利用に急を要するケースがあります。
厚生労働省の通知(平成31年2月19日付事務連絡)では、がん等の方で急を要する場合、保険者(市町村)の判断で、要介護認定の申請(新規申請・区分変更申請)を受けた後、認定結果が出る前の段階であっても、暫定ケアプランを作成して介護サービスの提供を開始することができるとされています。認定結果を待つことなく、必要な支援を即座に投入できます。
2. 状態急変時(1か月以内)は、サービス担当者会議の開催を省略可能
平成30年度の介護報酬改定において、末期がん利用者に対するケアマネジメントのルールが見直されました。
医師が、利用者が末期の悪性腫瘍で「1か月以内に急変する」と判断した場合には、サービス担当者会議の開催を省略して、ケアプランを修正することが認められています。これにより、刻一刻と変わる状態に合わせて、迅速にプランを変更し、サービスを調整することが可能になりました。
結びにかえて:自宅完結だけが「看取り」ではない
今回のケースは、その後どうなったかというと、退院後ほどなくして状態が悪化しました。ご家族の不安が強くなったため、最終的に再入院となり、自宅で看取ることはできませんでした。
「在宅で最期まで」という目標は達成できなかったかもしれません。しかし、ご家族や医師からは「お世話になりました」と感謝の言葉をいただきました。
看取りの支援は、決して「自宅で最期まで過ごすこと」だけが成功ではありません。ご本人とご家族が、その時々で最も安心して過ごせる場所を選択できるよう支え、その決断に寄り添うこともまた、大切な看取り支援の形です。
看取り支援に不安を感じるケアマネジャーの皆様。経験することも大事ですが、未経験だから、経験が浅いからと言って、ミスは許されません。だからこそ、チームを信頼し、医療職と密に連携しながら、自分自身の役割(その先を見て介護の環境を整えること)に誇りを持って取り組んでください。自分を見失わず、先を見て支援することが、ご本人とご家族の支えになります。



